自社サイトの「読みもの」がどれだけ読まれているかを、毎朝機械で測って台帳に残している。その中に「公開以来、一度でも読まれた記事の本数」という数字がある。書いた記事のうち、誰にも開かれていないものがどれだけあるかを見るための数字である。
この数字は、9月5日から9月26日まで、22日間ずっと2本のままだった(自社計測・実測)。今朝、9月27日分を測ったところ、23本になっていた。公開24本のうち23本である。同じ朝の台帳には「前日に1回以上読まれた記事」も23本と出ていた。
一晩で読まれた記事が11倍以上になった、と書けば景気のいい話になる。実際に起きたのは、1人が1回の訪問で28ページを開き、合計5秒で帰った、ということだった。この記事は、そのほどき方と、数え方のどこに穴があったかの記録である。
何が起きていたか
まず、同じ9月27日のサイト全体の数字を見る。以下はすべて自社計測(GA4の実測値。GA4はGoogleが無料で提供しているアクセス解析の道具)である。
- 訪問(セッション)1回
- 訪問者(ユーザー)1人
- ページの表示28回
訪問は1回しかない。つまり「23本の記事が読まれた」は、1回の訪問が23本の記事ページを通過したことを、23回数えた結果だった。
その1回の訪問を、GA4に分解してもらった(実測)。
- 参照元:なし(URLを直接入れたか、ブックマークなどから来た扱い)
- 端末:パソコン、ブラウザはChrome、国内から
- 入口:トップページ
- 時間帯:18時台の1時間に28ページすべて
- 開いたページ:トップ、会社概要、サービス、事例一覧、記事一覧、そして記事23本
- 画面を見ていた時間の合計:5秒
最後の数字がいちばん大事である。GA4には「そのページが画面の前面に出ていた時間」を測る指標(エンゲージメント時間)がある。28ページの表示に対して、その合計が5秒だった。記事23本のうち20本は0秒、残り3本が1秒ずつである(自社計測)。
人が記事を読んだ時間ではない。ページを次々に開いて閉じた、あるいは画面の裏で開かれた、という形に近い。誰だったのかは分からない。こちらの動作確認だったという証拠も、そうでなかったという証拠も、台帳からは取れなかった。ここは推測で埋めない。
なぜ数字が23になったのか
仕組みは単純で、数え方がそう決まっていたからである。
毎朝の測定は、記事ページごとに「セッションが1以上あったか」を見ている。セッションは「1回の訪問」の単位で、1回の訪問の中で開かれたページには、それぞれ「その訪問が1回あった」と記録される。だから1回の訪問で23ページを開けば、23本の記事がそれぞれ「1回読まれた」ことになる。
GA4の側に間違いはない。ページごとのセッション数は、GA4が本来そう返す数字である。問題は、こちらがその数字に「読まれた」という意味を乗せていたことにある。
さらに悪いことに、同じ1回の訪問が、同じ朝の台帳の別の欄にも入り込んでいた。前日に公開した記事の「公開翌日の初動」の欄である。この日の初動は「セッション1」と出ていたが、それも同じ訪問だった(実測)。毎朝の報告で最初に書く数字3つ(前日公開記事の初動、前日に読まれた本数、公開以来読まれた本数)が、3つとも1回の訪問でまとめて動いたことになる。
報告を読む側からは、3つの数字が同時に良くなったように見える。3つの独立した証拠が揃ったように見える。実際には証拠は1つしかない。数字の数と証拠の数が一致していない状態は、数え方を分けて持っていると気づきにくい。
「エンゲージした訪問」でも弾けなかった
最初に試したのは、GA4が用意している「エンゲージメントのあったセッション」という指標に置き換えることだった。ざっくり言うと「10秒以上いた、2ページ以上見た、または成果に当たる行動をした訪問」だけを数える指標である。いかにも、流し見を除けそうに見える。
結果は変わらなかった。公開以来の全期間(9月2日〜27日)で数え直すと、23本の記事すべてで「エンゲージメントのあったセッション」が1以上になった(自社計測)。
理由は定義にある。この判定は訪問単位で行われる。9月27日の訪問は28ページを見ているので「2ページ以上見た」を満たし、訪問まるごとが「エンゲージした」扱いになる。その訪問が通過した23ページすべてに、その判定がそのまま付く。ページごとに「そのページで何秒いたか」は見ていない。
名前だけ見ると、ちょうどよい物差しに思える指標が、ページ単位の問いには使えない。これは今回の実測で初めて確かめたことである。
ページごとの時間で数え直すとどうなるか
弾けたのは、ページごとのエンゲージメント時間で見たときだけだった。全期間の実測で、記事ページごとの合計時間は次のとおりである(自社計測)。
- 管制画面の記事(9月6日公開):4回の訪問で合計32秒
- メール認証の設定の記事(9月3日公開):3回の訪問で合計76秒
- 残り21本:合計0秒または1秒
「合計10秒以上」を読まれた条件にすると、一度でも読まれた記事は2本になる。9月26日までの台帳と同じ数字である。23本という数字は、数え方1つで2本に戻る。
どちらが正しいか、という話ではない。問いが違う。「そのページが開かれたか」を知りたいならセッション数でよい。「その記事が読まれたか」を知りたいなら、時間の条件が要る。台帳は前者を数えて、報告は後者の言葉で書いていた。そこがずれていた。
なお10秒という線は、今回の実測を見て置いた仮の線である。記事は2500字以上あるので、本当に読むなら10秒では済まない。一方で、見出しだけ拾って閉じる読み方にも意味はある。線をどこに引くかは、4週分の実測がそろってから決める、と台帳の方針に書いてある。今回はその方針どおり、合否の線はまだ引かない。
数字が良くなった日こそ、ほどく
この件で得た教訓は2つある。
1つめ。数字が急に良くなった日は、悪くなった日と同じ手順でほどく。 22日間2本だったものが1日で23本になるのは、施策が効いたのでなければ、数え方か入ってきたデータのどちらかが変わったときである。今回は、サイト全体の訪問が1回しかないことを先に見れば、1分で気づけた。記事別の数字だけ見ていたら、良い報告を1本書いて終わっていた。
2つめ。「何本の記事が読まれたか」のような本数の指標は、1回の訪問に簡単に占領される。 訪問数が1日に0〜6回しかない規模のサイトでは(9月の日別実測の範囲)、ページを端から開く訪問が1回あるだけで、本数の指標は最大値近くまで振れる。小さいうちは、本数よりも「時間の合計」や「2回以上来た人」のような、1回の訪問では稼ぎにくい数字のほうが実態に近い。
経営の数字でも同じことが起きる。問い合わせ件数が急に増えた月に、中身を見たら同じ会社の複数の担当者が同じ日にフォームを送っていた、というのは珍しくない。件数は正しい。ただ、件数が意味していると思っていたもの(関心を持った会社の数)とは違う。
いま残っている穴
この記事を書いた時点で、次の3つは手を付けていない。
- 毎朝の測定の数え方は、まだ変えていない。明日の台帳も、同じ条件で数える。数え方を途中で変えると、過去の日と比べられなくなるので、変えるなら過去分も同じ条件で数え直してからにする
- ページごとの時間を台帳に持たせる改修は、まだしていない。今回の数字は、台帳とは別に手で問い合わせて取ったものである
- 9月27日の訪問が誰だったかは分からないままである。こちらの動作確認を除く仕組み(社内の接続元を除外する設定)は、毎朝「一致」と確認できているが、それで除けるのは母艦の接続元だけで、ほかの場所からの確認は除けない
穴を残したまま書くのは、測っていないことを測ったように書かないためである。次にこの数字を報告するときは、本数と一緒に、その日の訪問数と時間の合計を並べて出す。本数だけを先頭に置くことはしない。